▼力添えいただいたイベント
NEGI PON 「かぼちゃワイン」
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イマヲイキル
愛知県・西尾
チーズ職人
今井 セザル
「同じものを食べるなら感覚は一緒だ」
店に並ぶチーズにはルーツがある。
あるものはイタリアで生まれ、あるものはブラジルで、そしてあるものは西尾で。チーズには家族がたどった歴史を映している。 はじまりは北イタリアの山村。先祖が選んだ職業は、時を経てブラジルに渡った祖父にも受け継がれた。同じくチーズ職人となった父、まだ幼い彼はチーズを作る年齢ではなかった。
22年前に日本に移住したが、それはチーズを作るためではなかった。10年ほど自動車関連の仕事をするなか、仲間の願いに応じた父はチーズ作りの再開を決めた。そして、彼自身もその手伝いをするようになった。
チーズの貴重さを、お客さんの反応が教えてくれた。日本の気候や牛乳にあわせ何度も作り続けるうちに、「チーズを作ることが好きなことになっていた」。
職人となった彼がチーズを作るときの信条、それは中途半端な味を基準にしないことだ。しかし目指すべき味がどんなものか考えたことはないという。「チーズ の味は自分で知っている」と言った彼は、代々同じものを食べるなら感覚は一緒だから、と続けた。
きっと父も、その父も同じようにして知っていたのだろう。19世紀の山村から同じものを食べてきたのだから。彼の家族にとって食卓に並んだチーズはいつだって父の味だ。それはきっと、彼の娘にとっても。
2012.7.6 取材
文_近田 全史 / 写真_ミゾグチ ジュン