文:宮崎ゆかり
構成・写真:ABARERU.jp
FEATURE
奈良県・吉野
奈良県・吉野

木の国・吉野の物語

1.吉野という地

吉野は奈良県南部の、吉野川流域を指します。いいかえれば吉野町(よしのちょう)、川上村(かわかみむら)、東吉野村(ひがしよしのむら)、黒滝村(くろたきむら)など吉野郡一帯のことです。
面積の大半を森林が占め、山深くに源をもつ清流が、森林や里を潤していきます。恵み多い森とともに、人々は古代から暮らしを営んできました。
吉野の歴史は古く、神話や伝説に吉野のことが描かれています。万葉集にも吉野を詠んだ歌が数多く載せられていて、その数は88首といわれます。
吉野の雄大な自然は人々の崇敬(すうけい)を集め、やがて吉野は修験道*1(しゅげんどう)の聖地となりました。あるいは都人の憧れの地となって、この地に足を運んだ皇族や貴族も多いといいます。
南北朝時代には南朝が置かれて、吉野は政ごとの舞台となりました。そんな歴史浪漫の薫りは今もこの地に残されています。
また、吉野町の南部に位置する吉野山は、桜の名所として全国にその名を知られています。ここでお亡くなりになった後醍醐天皇(ごだいごてんのう)をはじめ、戦国時代から安土桃山時代の武将・豊臣秀吉や平安末期の動乱の世を生きた歌人・西行(さいぎょう)が愛でた景色は、今でも人々を魅了してやみません。秀吉はやがて天下人(てんかびと)となり、吉野山でその力を示すかのように大がかりな花見の宴を催しています。一方、僧侶で歌人の西行は吉野山の奥深くに庵(いおり)を結び、ひっそりと桜の花に思いを寄せました。吉野山の桜は咲き誇り、やがてはらはらと散りゆく…その華やかさと儚(はかな)さの両面が、日本人の心をとらえるのでしょう。
日本は山地が多く木の文化が根付いた国です。その原風景ともいえる奥深い山々に囲まれた吉野は、日本人のこころの故郷でもあるのです。

*1
修験道:
日本古来の山岳信仰に神道や外来の仏教、道教などが混合して平安時代に成立した日本独特の宗教。深い山岳で修行し、霊験を感得しようとする実践の宗教である。


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