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イマヲイキル
岐阜県・岐阜
昆虫学者
名和 哲夫
「ミヤマカラスアゲハに馬鹿にされた。」
子供の頃から、カマキリなど虫たちのエサを取る勇ましい姿をいつも観察していた。そして、中学校の科学実験の授業をきっかけに、将来はそういった道に進みたいと考えるようになった。
大学で昆虫学を専攻するが、学問よりもバンド活動に熱中していった。将来の進路に迷い始めた頃、昆虫と音楽により導かれた縁で、ある昆虫研究所の職員として働くことになった。
実際に働き始めると昆虫に対する絶対的な知識不足を思い知った。そして、これから仕事として理不尽に多くの虫たちを採集することに疑問を感じ、本当にこの道で良かったのかと悩んだ。
気が進まないまま、初めて昆虫の採集に行ったとき、目の前をひらひらと舞うチョウを捕まえるのは簡単だと思った。だが、そう思い通りにはならなかった。幾度も幾度も網を振り回すが捕まえられず、これほど「悔しい」と感じたことはなかった。
もう最後のチャンスと無我夢中に振った網にこのチョウがいたとき、今までにない爽快感を感じてしまった。このことが、昆虫たちとずっと向き合っていく転機となった。
自然の中で懸命に生きる小さな生命たち。
採集を通してその姿からたくさんの生きる術を学んだ。全ての命を育む自然に比べたら自分も虫たちと同じちっぽけな存在だ、だから思う道をくよくよせずしっかり歩めばいいんだと。
これからは、虫たちから学んだことを、人生を楽しむ「昆虫楽」としてみんなに伝えていきたい。
2014.2.26 取材
文_岩瀬 せいら / 写真_ミゾグチ ジュン