木の国・吉野の物語
文:宮崎ゆかり
構成・写真:ABARERU.jp
FEATURE
奈良県・吉野

4.植林から木材利用まで

吉野の財産である吉野杉は、時間をかけ丹精込めて育てられます。
吉野杉の種子は樹齢60〜70年の母樹(ぼじゅ)から採集するのですが、これは2~3年と樹齢の若い樹から採集する一般的な方法とは大きく違う点です。吉野杉ははじめから長いサイクルで考えられているのです。
吉野の木工の歴史を振り返れば、かなり昔にさかのぼります。平安時代中期の後一条帝(ごいちじょうてい)や白河上皇(しらかわじょうこう)の御代(みだい)には、吉野町の下市(しもいち)あたりを中心に漆器の製造が行われていました。山奥の川上村では木地職*6(きじしょく)が既に定着しており、様々な木地を製造、下市の漆器業に原料を供給していたそうです。
江戸時代初期の寛文(かんぶん)年間(1661〜1673年)には、吉野地方独特の加工である洗(あらい)タルキ*7、洗丸太*8などの製造がはじまりました。その後、樽丸は享保(きょうほう)年間(1716〜1736年)にはじまっています。
それぞれの時代に応じて、あらゆる方面の木材加工が進められました。現在では樽丸をはじめ柱材などの建築材、建具、家具やインテリア、生活用具、端材は割箸にするなど、まるごと1本余すことなく活用されています。
吉野杉の割箸は目がまっすぐで香り良く、高級割箸として定評があるものです。端材といえども吉野杉、決して無駄にしない木の国・吉野の心意気であり、美を追求する吉野の感性でもあるのです。
また、間伐材は密植と切り離せない関係にあり、年間数百万本が伐採されています。襖(ふすま)材や木工芸品、樽栓、かまぼこ板など、こちらもすべて使い切ります。伐採された木は職人たちによって新たな命が吹き込まれていくのです。
吉野の森と水に恵まれて生まれたものがもうひとつ。室町時代から漉(す)かれている和紙で、宇陀(うだ)紙(国栖(くにす)紙)、三栖(みす)紙、漆こし紙があります。昔ながらの製法で漉かれる吉野の和紙は日本が誇れるもの。
山河に生きる吉野の暮らしは、自然に寄り添う日本古来の価値観を象徴するものかもしれません。

*6
木地職:
お椀や杓子、盆などの生活道具を木材からつくる木製品加工を行う仕事。

*7
洗タルキ:
洗い磨いたタルキ用の材木。建築用材。

*8
洗丸太:
杉丸太を洗い磨いたもの。


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