文:宮崎ゆかり
構成・写真:ABARERU.jp
FEATURE
奈良県・吉野

3.吉野杉の特徴

吉野地方の主な植林材は杉と桧です。ことに吉野杉は、秋田杉、木曽桧とともに日本三大美林と讃えられる美林で生まれます。
吉野杉は江戸時代以降、主として「樽丸」*4(たるまる)という樽や桶(おけ)造りの用材として使われてきました。江戸時代には灘五郷*5(なだごこう)などの清酒醸造業が盛んになって、樽丸の需要が高まったのです。樽丸は口縁(こうえん)と底の幅がほぼ同じ寸法でなくてはなりません。吉野材は芯が中心にあって曲がりが少なく、年輪幅が細かく均一なものです。そのために強度が高く、酒漏れをおこさないため樽材として重宝されました。
もうひとつ樽材として評価が高かった理由は、吉野杉は木の香りに優れ色が白いことがあげられます。酒が赤く染まらず香りも良く消費地に届けられることができたのでした。
材の色が白く艶がある吉野杉は、樽丸のほか、敷居、鴨居、化粧板など高級な建築材としても用いられてきました。
ではどうして良質の杉が吉野で生まれるのでしょう。その訳のひとつは、密植で長期間育成することがあげられます。1ヘクタール(100m×100m:1万平方メートル) 8000本から12000本植えるという密植は吉野独特のもの。国有林では植える本数は3000本から3500本です。この違いは一目瞭然、吉野の密植がずば抜けていることがわかります。植える育成する期間も数十年以上という長期間。また間伐(かんばつ)によって良質な材を優先して育て、枝打ちを行って外形を丸くします。こうして徹底した知識と管理から生まれる吉野杉は、年輪幅が細く均一になり、芯を中心にしてまっすぐ伸びます。先細りしないで節(ふし)も少ない木になるのです。
(りん)と立つ吉野杉の美しさや強さは、日本が誇る長年の知恵と工夫から生まれているのです。

*4
樽丸:
樽の側板になる板材のこと。年輪に合わせて削った、曲面のついた板材である。吉野杉から作った「クレ」と呼ばれる板材を運搬のために「マルワ」と呼ばれる竹の輪の中に詰め込んだ。その丸い形から「樽丸」と呼ばれるようになった。

*5
灘五郷:
日本酒の一大生産地。兵庫県神戸市東灘区、灘区、西宮市を合わせた阪神間の地域である。


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